もうすぐ私の一番好きな季節がやってくる。
そう長い冬から解き放たれ生命の息吹が弾ける春だ。
さくらが咲き乱れ、春特有のどことなく甘い匂いが辺りを漂う。
この季節が近づくとどうしてもそわそわしてしまうのが毎年の私。
何故なら長年追い求めているサクラマスの遡上が各河川で繰り広げられるからだ。
サクラマスは未だ釣れず
私の祖父は私が生まれる前からサクラマスを追い求め、各地の清流に通っていた。
福井県の九頭竜川、富山県の庄川、神通川、黒部川、新潟の姫川、荒川、胎内川・・・。
よくは覚えていないが、冷たい雪解け水が混じり始める3月ごろから北陸の清流に挑んでいたのだろう。
河原から見る祖父は普段のそれとは違い、やたらカッコよく目に映ったものだ。
そんな祖父も10年前に他界した。
祖父が使っていた釣具は気づけば処分され跡形もなくなってしまったが、サクラマスを抱えて写る祖父の写真は今も実家に大事に保管されている。
祖父が他界して5年以上経って私も釣りに興味を持った。
祖父の影響か釣りと言えばサクラマス。
自然とそんな思考になって、すぐにサクラマス用のタックルやルアー一式を揃えた。
向かうは、祖父が挑んでいたある清流(勿論漁業権や内水面規則には準じて)。
冷たい水に浸かり、小さい頃に見た祖父の姿を思い出しながらキャストを繰り返した。
1年目は箸にも棒にも掛からない惨敗。
2年目も3年目も。
どうしたら釣れるんだよと祖父に話しかけたこともあった。
ようやくポイントが掴めてきた4年目(某河川の入漁権も当選)。
確か5月のゴールデンウィークを過ぎた辺りのある日の朝だった。
朝まずめ、比較的大きな瀬の落ち込み部分で稚鮎が何かに追われている。
上流部に投げ、ラインを送り込んでレンジを入れドンピシャでボイルしているポイントに送り込んだ瞬間、
「ドンッ!!」
といきなりバット部分まで押さえ込まれるバイト。
一気に頭を振りながら流心に逃げ込もうとする正体不明の魚。
なんとか流心から引きはがそうと必死に抵抗したその瞬間、苔が生えた岩に足を取られ転倒。
その一瞬のラインの緩みのせいでフックアウトしてしまったのだ。
ファイト時間はおそらく30秒もなかったはず。
それでもその30秒の出来事は今でも鮮明に覚えている。
その一度だけ。
サクラマスかはわからないが4年通って一番サクラマスと祖父に近づけたのではないかと思えた日だった。
5年目の春が来る
5年目の春がもうすぐやってくる。
今年も懲りずにサクラマスに挑戦したいと思う。
幻の魚サクラマス。
瀬で釣ってこそと先輩は言うけれど、そんなことはどうでもいい。
とにかく自分のスタイルを貫いて、銀ピカの一本を手にしてみたい。
そうすれば亡くなった祖父と何かしら会話ができるんじゃないかと本気で思っている。